1. HOME
  2. ブログ
  3. 都道府県医療会計支援センター
  4. 東京都医療会計支援センター
  5. 新宿ミライナ医療会計支援センター
  6. よくわかる医院の開業と経営Q&A

BLOG

新宿ミライナ医療会計支援センター

よくわかる医院の開業と経営Q&A

書籍概要

編  著:辻・本郷 税理士法人
定  価:550円(本体500円+税率10%)
判  型:B5判並製
ページ数:30ページ
五訂版発行:2019年11月
ISBN:978-4-88592-111-7 C0034

Q1 開業までどのくらいの準備期間が必要ですか?

回答・解説

開業までのスケジュールを簡単にまとめてみますと以下の通りです。
1.基本構想の決定
2.候補地の選定
3.診療圏調査
4.資金調達(資金計画)
5.医薬品卸業者等の選定
6.保健所等への届け出
7.募集広告、面接、教育
8.開業時広告
実際のタイムテーブルに当てはめ、例を挙げますと図の通りです。

開業までのタイムテーブル

標準年月日予定年月日項目細目必要資料等
R1.5 ・ ・ 

開業決定

開業準備スタート

開業セミナー出席
展示会見学
先輩診療所見学
R1.6 ・ ・ 開業地調査開業地立地調査(開業コンサルタント契約)
R1.7 ・ ・ 開業地域決定銀行借入金交渉スタート事業計画書作成
R1.8 ・ ・ 開業地決定不動産契約交渉不動産契約書
R1.9 ・ ・ 銀行融資内諾金銭消費賃借契約書
R1.11
 ・ ・ 
融資決定
不動産本契約
銀行借入実行
不動産契約書
金銭消費貸借契約書
R1.12 ・ ・ 

工事業者決定

施工設計業者決定
取引材料店決定
保健所事前相談
R2.2 ・ ・ 

診察所完成保健所へ書類提出
診察設備納入
保健所視察
R2.3 ・ ・ スタッフ募集募集広告、面接
R2.4スタッフ教育
開業時広告
協議会審査
(レセプトNo.決定)
雇用契約書



R2.5 ・ ・ 開業税務署等への開業届け

Q3 親族から借入れをする場合の注意点を教えてください

回答・解説

親や親類等から借入れをする場合には、第三者から借入れる場合と違い税務上注意しなければならないことがあります。それは身内であるために、借りたのではなく貰ったのではないかということで贈与として税金を課される恐れがあるためです。 贈与と認定されないためには次のような注意が必要です。
まず第三者から借入れる場合と同じようにすることが重要です。例えば自分が誰か他人にお金を貸すことを考えてみてください。後日「貸したよ」「いや貰ったんだ」等もめないように、またいくら貸したのかわかるようにしておく必要があると思います。
そのために親族との間でも契約書を取り交わしておきます。契約書には、借りた金額・返済期限・支払方法等を記載し、それぞれが署名と押印をします。個人間の借入れであるため利息は支払わなくてもかまいません。また返済期間等も決まりはありません。
大事なのは契約書通りに返済しているという事実です。そのため借入れたお金や返済したお金は、入出金の事実が確認できるよう銀行を通じて行うようにして、現金でのやり取りはしないようにしてください。そして契約書は、ご自身の資金繰りを考慮し余裕を持った返済計画に基づいて作成されるのがよいと思います。
また、開業資金に用意した資金が自己資金でも、親のものでも、資金の出所については税務調査の対象になる可能性もありますので、ご注意ください。
契約書に記載する内容
  ・借入日
  ・返済開始日及び返済回数
  ・借入れ金額        など

Q5 設備等は購入した方がよいですか? 賃貸(リース)した方がよいですか?

回答・解説

設備等を購入するか、リースにするかは、リースのメリット・デメリットを十分に理解の上、その時の状況により検討する必要があります。
リースのメリット
① リース期間で均等償却を行い必要経費になる。
② リース期間は法定耐用年数より短い。
③ 購入時の多額の資金が不要。
リースのデメリット
① 中途解約することができない。
② 購入に比べ支払合計は割高になる。
③ 物件の所有権がリース会社にあるため、リース契約終了後も物件を使用する場合には、再リースか買取をしなければならない。
一方、設備等を購入する場合には、一度に多額の資金を用意する必要があります。
ただし、購入後は定率法という減価償却を行えば、早い時期に多くの経費を計上することができます。また、購入の最大のメリットは、支払合計がリースに比べ少ないことです。ただ金融機関より設備投資目的の融資を受けられれば多額の資金を用意する必要がありません。
購入にするか、リースにするかは、リースのメリットにいかに重きをおくかによります。ただし、自己資金に全く問題がないのであれば、購入の方が有利な場合が多いです。

<参考>リースと借入の比較表(500 万円の医療機器のケース)(単位:万円)

リース(5年)購入(借入5年、耐用年数6年)
支出経費支出経費(定率法)
1年目100100100167
2年目100100100111
3年目10010010074
4年目10010010049
5年目10010010033
6年目101022
510510500456
※ リース・借入とも利息分は加味しておりません。リース6 年目は、再リースとなります。 購入の場合は、通常値引きが予想されます。

Q7 スタッフの募集はどのようにしたら良いでしょうか?

回答・解説

募集方法
募集方法には、以下の方法が考えられます。
① 新聞の折り込み広告・求人情報誌・ネット求人
② ハローワーク
③ 人材派遣会社
④ ホームページ
⑤ 友人、知人からの紹介
医院のスタッフは、そのクリニックの顔になる存在ですので先々の事を考えて採用することが重要です。
募集を開始する時期ですが、通常は医院の広告・宣伝を考え始めるのと同じ時期に取りかかる場合が多いようです。新聞の折り込み広告に募集を出すことによって、地域の人々にクリニックの事を知ってもらうという宣伝効果を兼ねることも出来るからです。
どの媒体を使った方がより効果的に人が集まるかは、地域によって差異があります。 また、新聞の広告・求人情報誌に掲載するとかなりのコストもかかってしまいます。その点ハローワークでは、コストがかからないので、有効に活用してみるのも良いでしょう。
また、地域によっては、有資格者の確保は難しいことがあります。地域の看護学校等に広告・掲示を依頼し、学校の先生方又は、知人に紹介していただくのも良い方法です。
ただ、逆に採用後自分の医院に合わない場合でも率直に意見を言いにくいという場合もありますので、長い目で採用を考える方が良いでしょう。
次に、人材派遣会社を活用する方法もあります。『経験者・有資格者の確保・クリニックに合った条件を提示できる』という点で有効です。一見この場合、よりコストが掛かるように思われがちですが、人材派遣の場合、通常の従業員と比べ賞与の支給や、社会保険等の費用が掛からないので、長い目でみた場合逆にコスト削減につながるところもあります。また、何度でも面接できますし、採用に至らなかった場合は基本的に費用はかかりません。より良い人材を確保する上で、人材派遣を利用することは有効な手段といえるでしょう。ただし、条件の合う人材を探すためには、早めに依頼しておく事が必要となります。

Q8 効果的な開院広告について教えてください

回答・解説

開院広告の時期は、開院日までに日がありすぎても記憶がうすれてしまうこともあるので、開院日1,2週間前と開院日直前のチラシ等による広告、また開院前の週末1,2日間の内覧会実施による広告等が効果的だと思います。
広告手段は様々ですが各広告媒体の特徴をつかみ、複数の広告媒体を効果的に使うのがよいと思います。
主な広告媒体の特徴は以下のとおりです。

駅広告駅利用者が対象
年間契約で費用が高い
設置場所により効果の差が大きい
電柱広告公道上に掲出できる唯一の媒体
道案内への効果が大きい
他の媒体に比べて比較的料金が安い
電話帳広告急患の利用が多い
休日・夜間の診療時間等の記載がポイント
折込広告広告する地域を絞り込むことが可能
即効性が大きい
直接手元に残る情報伝達が大切
ポスティング地域を選んでの配布が可能
即効性がある
折込広告と比べ手にとって見てもらえる確率が高い
ホームページくわしいクリニックの情報が出せる
予約制を考える場合は効果的
常に検索した場合トップに表示されるような工夫が必要
スマホ対応のホームページにする方がよい

広告内容については医療法で広告してよいと認められている項目に制限があるので注意が必要です。
内覧会も、自由に院内の設備や院長、職員の人柄に触れていただける場を持つことが出来ます。
いずれにしても広告にかかる費用は安いものではありません。初診患者への問診票等に欄を設けて、どの広告媒体により医院を知ったのかをアンケートするなどして、しばらくしたら広告媒体ごとの費用対効果を検証の上、それぞれの診療所にあった効果的な広告をすることが必要だと思います。

Q10 開業に際し必要な役所関係の手続について教えてください

回答・解説

開業が決まりましたら、各諸官庁へ届出が必要になります。大きなくくりでは、診療関係・税務関係・雇用関係の三つに分類されます。
以下、必要な届出書と、提出先となります。
① 診療関係の届出
診療所開設届… …………………………………… 保健所
診療用X線装置備付届… ………………………… 保健所
高周波利用設備許可申請… ……………………… 電波管理局
保険医療機関指定申請書… ……………………… 厚生局
医師会の入会申込書… …………………………… 医師会(強制ではない)
② 税務関係の届出
個人事業の開業・廃業等届出書… ……………… 税務署・県税事務所
所得税の青色申告承認申請書… ………………… 税務署
青色事業専従者給与に関する届出書… ………… 税務署
給与支払事務所等の開設届出書… ……………… 税務署
③ 雇用関係の届出
労働保険保険関係成立届… ……………………… 労働基準監督署
雇用保険適用事業所設置届… …………………… 公共職業安定所(ハローワーク)
雇用保険被保険者資格取得届… ………………… 公共職業安定所(ハローワーク)
健康保険・厚生年金保険新規適用届… ………… 年金事務所
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届…… 年金事務所
最後の健康保険・厚生年金保険関係につきましては、従業員数が5人未満の場合ですと、任意加入となります。医師国保又は国民健康保険・国民年金の継続適用とする場合は提出する必要はありません。

Q12 消費税は患者様からいただくのでしょうか?

回答・解説

医院の収入については消費税がかかるものと、かからないものがあります。消費税がかかるものについては患者様から消費税をお預かりします。

消費税がかかるもの消費税がかからないもの
健康診断
診断書作成
予防接種
など
社会保険医療
公費負担医療
労災
など

また、学校医等の報酬は「給与所得」となり消費税がかからないものとなります。一方、自動販売機や物品の売上、駐車場を貸して得る収入などは、消費税がかかるものとなります。
患者様からお預かりした消費税は、原則として開業後2年間は消費税を納める義務はありません。これは納めるかどうかの判定期間が2年前の年になるためです。3年目以降は基準期間である2年前の年の収入のうち「消費税のかかる収入」が年1,000万円 を超える年は翌年3月31日までに申告し納税しなければなりません。令和元年の「消費税のかかる収入」が1,000万円を超えた場合には令和3年は消費税を申告するということです。
前々年の「消費税がかかる収入」が5,000万円以下の年は、簡易課税という簡便的な方法を選ぶこともできます。選択する場合には一定の期日までに届出の必要がありますので、税理士等にご相談ください。
平成25 年10 月1 日施行の消費税転嫁対策特別措置法にて、消費税込みの金額を表示することになりましたので、「消費税がかかる収入」である自由診療や物品販売等について金額を患者様にお伝えする際には消費税を含めた金額を表示するようご注意下さい。

Q14 スタッフの給与の計算について教えてください

回答・解説

給与計算
給与は、医院の為に働いてくれたスタッフの方への報酬です。給与額や賞与額の支給額等の間違いは、お互いの信頼感を損なうおそれもあり、不信感を抱かれる第一歩になりかねません。気持ちよく働いてもらう為にも給与計算は、締め日を決めてから支給日まで余裕をもった間隔(10日以上)をとり、計算を行いましょう。v 給与計算は、単に月給・時給、交通費の金額の算定だけでなく、源泉所得税や医院の人数等によっては健康保険料・雇用保険料の徴収義務が給与支払い事業者に生じます。支給額によって徴収額も変わりますので、注意して計算しましょう。
所得税の計算をするには、通常「源泉徴収税額表(月額表)」を使用します。月額表には、甲欄・乙欄とがあり、下記のように使い分けることが必要です。最初の給与計算を始める前に、まずスタッフの方々に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出してもらいましょう。
ただし、この申告書は、1 事業所にしか提出できませんので、複数箇所から給与をもらっているスタッフの方には、主たる事業所を確認して、提出してもらいましょう。
① 甲欄
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員
② 乙欄
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない従業員
注意すべき点は、スタッフの方がその労働の対価として支払を受けるものは、金銭だけではなく、通勤手当・昼食代・借り上げ社宅家賃・社員旅行等も現物給与として課税の対象となることがありますので、必ず税理士とご相談の上金額を決めるようにしましょう。

Q15 妻に給与を払うことが出来ますか?

回答・解説

A-1 青色事業専従者給与
生計を一にしている配偶者やその他の親族が診療所経営に従事した場合に支払われる給与は原則として必要経費にはなりません。
しかし、青色申告者の場合、配偶者やその他の親族を青色事業専従者として届出を出すことによって必要経費に算入することが出来ます。
A-2 青色事業専従者給与の要件
① 青色申告者と生計を一にする配偶者またはその他の親族であること
② その年の12月31 日現在で15 歳以上であること
③ その年を通じて6 ヶ月を越える期間その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。(一定の場合には事業に従事する事が出来ると認められる期間の2分の1を越える期間専ら事業に従事すること)
A-3 「 青色事業専従者給与に関する届出書」
青色事業専従者給与額の必要経費算入の規定の適用を受けようとする年の3月15日までに「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していること(新規開業の場合は、開始してから2 ヶ月までに提出)
A-4 専従者給与の適正額
青色事業専従者に支給する額は、所得税法によると『その労務の対価として相当な金額であること』とあいまいな表現になっています。
しかし、金額に妥当性を持たせる為に以下の点に注意して支給額を決める必要があるでしょう。
① 勤務実態や執務内容を考慮した適正な金額であること
② 専従者の年齢、資格、従事期間に見合った金額であること
③ 支給額が他のスタッフと比べて著しく高くないこと
④ 同じ規模の医院と比較して著しく高くないこと
一般的に専従者給与は他のスタッフと比べると通常の業務の他、給与計算や会計業務の記帳、医院の資金繰り等を行うという理由により高額になることもあります。
この場合には、タイムレコーダー等により出勤事実の証拠を残すことはもちろん、業務内容を明確にする為に、業務日誌を記入、会計帳簿の記帳などをしていれば、その筆跡から本人の確認も行え、税務調査があった場合、勤務実態を証明するための重要な資料となります。

Q17 開業後どのような税金が発生しますか? またその支払い方法はどうなりますか?

回答・解説

開業前は勤務先が税金を給与天引きし、年末調整してくれましたが、開業後は先生の税金はもちろん、従業員の給与に対して預った税金も先生が所定の時期に納付し申告しなければなりません。納税も申告も期限に遅れるとペナルティがありますし、資金繰り上も納税時期・金額は重要になります。
その年の診療所の収入から経費を引いた儲けを「事業所得」として、他の所得とまとめて確定申告し、翌年3月15日までに所得税を納めます。一年間の税金が一定額以上の場合、予定納税として前年税額をもとにした額を分割して7月31日と11月30日ま でに前払いします。
確定申告をすれば住民税の申告は必要なく、市町村から届いた納税通知により年間4期に分けて納付します。
診療収入の内容や収入額により消費税(Q12をご参照ください)や事業税(社会保険診療以外の収入に対してかかります)がかかることがあります。また不動産等をお持ちの場合には固定資産税も納めます。
その他先生の税金ではありませんが、従業員の給与や賞与から預った源泉税は、翌月10日までに納付します。但し従業員が常時10人未満の場合は年2回に分けて納付することができます。

主な年間納税スケジュール
所得税住民税消費税
(中間申告が
年3回の場合)
事業税固定資産税従業員の源泉税
通常(納期の特例を
とった場合)
1月第4期1/101/20
2月第4期2/10
3月3/153/313/10
4月4/10
5月予定納税第1期5/10
6月第1期6/10
7月予定納税第2期7/107/10
8月第2期予定納税第1期8/10
9月9/10
10月第3期10/10
11月予定納税予定納税第2期11/10
12月第3期12/10

Q19 確定申告以外に税金関係でやらなければならない作業はありますか?

回答・解説

年末調整と償却資産税の申告です。
(1)年末調整
年末調整とは、一年間の給与に対する所得税を計算し、毎月の給与支給時に預かっている所得税との差額を精算することをいいます。
開業しますと、従業員さんに対してこの作業を必ず行わなければなりません。 また、年末調整作業と併せて、『給与支払報告書』というものを従業員の住所所在地の市区町村役所(役場)に送らなければなりません。
(2)償却資産
土地・建物には「固定資産税」、自動車には「自動車税」がかかるように診療所の内装・医療機器・パソコン等の固定資産に「償却資産税」という税金がかかります。
償却資産税は1 月31 日までに申告しなければなりません。